薬学教育モデル・コアカリキュラムについて
目次
薬学教育モデル・コアカリキュラムとは
「薬学教育モデル・コアカリキュラム」は、教育、教育者が何を教えるかの科目・項目の記載(教育者主体のカリキュラム)ではなく、学生さんの到達目標が記載された6年制薬学教育カリキュラム(学生主体のカリキュラム)です。
「薬学教育モデル・コアカリキュラム」は、医療人である「薬剤師として求められる資質」を明確にし、その資質を身につけるために学ぶという6年制学部・学科の学士課程に特化した内容になっています。
参考:文部科学省「薬学教育モデル・コアカリキュラム(令和4年度改訂版)」はこちら(PDF形式)
日本全国の6年制薬系大学では、教育課程の時間数のおよそ7割は「薬学教育モデル・コアカリキュラム」に示された内容を履修し、残りは大学オリジナルの教育(アドバンスト教育)を履修します。
臨床現場に出るための最低限の知識と技能が身についているかどうかを確認するための4年次共用試験(CBT・OSCE)や6年卒業後に受験する薬剤師国家試験の出題基準は、この「薬学教育モデルコアカリキュラム」に基づいているため、この内容を理解することは重要です。
薬学教育モデル・コアカリキュラムの変遷
薬学教育に6年制が導入されるにあたり、2002年(平成14年)に専門教育部分について、2003年(平成15年)に実務実習部分についての薬学教育モデル・コアカリキュラムが、それぞれ日本薬学会と文部科学省によって策定されました。このモデル・コアカリキュラムは、2006年度(平成18年度)の6年制第一期生から適用されました。
2013年(平成25年)になって、上記の専門教育部分と実務実習部分とが統合されて、改訂版のモデル・コアカリキュラムが文部科学省により策定され、2015年度(平成27年度)6年制入学生から適用されました。
参考:文部科学省「薬学教育モデル・コアカリキュラム(平成25年度改訂版)」はこちら(PDF形式)
その後、医療を取り巻く社会構造の変化は著しく、多様な時代の変化や予測困難な出来事に柔軟に対応し、生涯に渡って活躍し、社会のニーズに応える医療人の養成が必須であるとの認識が高まり、2022年度(令和4年度)には、原則として医学・歯学・薬学の3領域で、求められる基本的な資質・能力を共通化すべく、3領域連携したモデル・コアカリキュラムが文部科学省によって同時策定され、2024年度(令和6年度)6年制入学生から適用されています。
参考:文部科学省「薬学教育モデル・コアカリキュラム(令和4年度改訂版)」はこちら(PDF形式)
薬学教育モデル・コアカリキュラムの基本理念
「未来の社会や地域を見据え、多様な場や人をつなぎ活躍できる医療人の養成」
医療人である「薬剤師として求められる基本的な資質」
薬剤師は、豊かな人間性と医療人としての高い倫理観を備え、薬の専門家として医療安全を認識し、責任をもって患者、生活者の命と健康な生活を守り、医療と薬学の発展に寄与して社会に貢献することを踏まえ、6年制薬系大学卒業時に必要とされている資質は以下の通り定められています。
①プロフェッショナリズム | 豊かな人間性と生命の尊厳に関する深い認識をもち、薬剤師としての人の健康の維持・増進に貢献する使命感と責任感、患者・生活者の権利を尊重して利益を守る倫理観を持ち、医薬品等による健康被害(薬害、医療事故、重篤な副作用等)を発生させることがないよう最善の努力を重ね、利他的な態度で生活と命を最優先する医療・福祉・公衆衛生を実現する。 |
②総合的に患者・生活者をみる姿勢 | 患者・生活者の身体的、心理的、社会的背景などを把握し、全人的、総合的に捉えて、質の高い医療・福祉・公衆衛生を実現する。 |
③生涯にわたって共に学ぶ姿勢 | 医療・福祉・公衆衛生を担う薬剤師として、自己及び他者と共に研鑽し教えあいながら、自ら到達すべき目標を定め、生涯にわたって学び続ける。 |
④科学的探究 | 薬学的視点から、医療・福祉・公衆衛生における課題を的確に見出し、その解決に向けた科学的思考を身に付けながら、学術・研究活動を適切に計画・実践し薬学の発展に貢献する。 |
⑤専門知識に基づいた問題解決能力 | 医薬品や他の化学物質の生命や環境への関わりを専門的な観点で把握し、適切な科学的判断ができるよう、薬学的知識と技能を修得し、これらを多様かつ高度な医療・福祉・公衆衛生に向けて活用する。 |
⑥情報・科学技術を活かす能力 | 社会における高度先端技術に関心を持ち、薬剤師としての専門性を活かし、情報・科学技術に関する倫理・法律・制度・規範を遵守して疫学、人工知能やビッグデータ等に係る技術を積極的に利活用する。 |
⑦薬物治療の実践的能力 | 薬物治療を主体的に計画・実施・評価し、的確な医薬品の供給、状況に応じた調剤、服薬指導、患者中心の処方提案等の薬学的管理を実践する。 |
⑧コミュニケーション能力 | 患者・生活者、医療者と共感的で良好なコミュニケーションをとり、的確で円滑な情報の共有、交換を通してその意思決定を支援する。 |
⑨多職種連携能力 | 多職種連携を構成する全ての人々の役割を理解し、お互いに対等な関係性を築きながら、患者・生活者中心の質の高い医療・福祉・公衆衛生を実践する。 |
⑩社会における医療の役割の理解 | 地域社会から国際社会にわたる広い視野に立ち、未病・予防、治療、予後管理・看取りまで質の高い医療・福祉・公衆衛生を担う。 |
薬学教育モデル・コアカリキュラムの構成
薬学教育モデル・コア・カリキュラムは、以下(A~G)の大項目から成り立っており、そのうちB~Gの各大項目には、<大項目の学修目標>、<「A 薬剤師として求められる基本的な資質・能力」とのつながり>、<評価の指針>が設定されている。
大項目 | 内容 |
A 薬剤師として求められる基本的な資質・能力 | 1)プロフェッショナリズム 2)総合的に患者・生活者をみる姿勢 3)生涯にわたって共に学ぶ姿勢 4)科学的探究 5)専門知識に基づいた問題解決能力 6)情報・科学技術を活かす能力 7)薬物治療の実践的能力 8)コミュニケーション能力 9)多職種連携能力 10)社会における医療の役割の理解 |
B 社会と薬学 | B-1 薬剤師の責務 B-2 薬剤師に求められる社会性 B-3 社会・地域における薬剤師の活動 B-4 医薬品等の規制 B-5 情報・科学技術の活用 |
C 基礎薬学 | C-1 化学物質の物理化学的性質 C-2 医薬品及び化学物質の分析法と医療現場における分析法 C-3 薬学の中の有機化学 C-4 薬学の中の医薬品化学 C-5 薬学の中の生薬学・天然物化学 C-6 生命現象の基礎 C-7 人体の構造と機能及びその調節 |
D 医療薬学 | D-1 薬物の作用と生体の変化 D-2 薬物治療につながる薬理・病態 D-3 医療における意思決定に必要な医薬品情報 D-4 薬の生体内運命 D-5 製剤化のサイエンス D-6 個別最適化の基本となる調剤 |
E 衛生薬学 | E-1 健康の維持・増進をはかる公衆衛生 E-2 健康の維持・増進につながる栄養と食品衛生 E-3 化学物質の管理と環境衛生 |
F 臨床薬学 | F-1 薬物治療の実践 F-2 多職種連携における薬剤師の貢献 F-3 医療マネジメント・医療安全の実践 F-4 地域医療・公衆衛生への貢献 F-5 臨床で求められる基本的な能力 |
G 薬学研究 | G-1 薬学的課題の探究と薬学研究に取り組む姿勢 G-2 研究の実践 |
【参考:薬学共用試験(CBT・OSCE)について】
薬学共用試験について 薬学共用試験とは 6年制薬学教育では薬剤師としての実践能力の習得、医療人としての倫理観や使命感の醸成を目指して、経験豊富な薬剤師の指導・監督の下で、5年次以降に病院・薬局などの医療現場での実務実習が実施されます。そこで、薬剤師資格を持たない薬学生が実務実習を行うにあたり、学...